Taisuki Café

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台中の日式を見る:彷徨(さまよ)い出逢う喜び

連載:「台湾日式建築サンポ:都市偵探の楽しい時間」
第 4 回

私はひねてくれているのだろうか。
「無名なもの」「知られざるもの」を見つけたくてしょうがない。

台中市。台湾西海岸のまんなかに位置する、台湾第3の都市。
降り立った台中車站(駅)は、まず最初に振り返ってみるべきだ。
煉瓦と白い石のゼブラ模様と、巨大な寄棟屋根、ファサード上部の彫刻は、葉っぱや花、そして葡萄の実がこぼれ落ちそうなほどリアルである。

台中の近代建築といえば、向かい合う台中市役所と台中州庁の「白亜の姉妹」がいちばんの見どころ。州庁は日本人技師の代表というべき森山松之助の設計、古典的な様式がてんこ盛りのバロック風。街路の直角の出隅(ですみ)に立ち、シンメトリな2階建て。ブロークンペディメントが上下に重なるとてもシンボリックな官庁建築である。これが現役で使われているというのは驚きであり、感銘を受ける。

加えて、台中では、民間の手による歴史的建造物の保存・再生の事例も多い。

私は駅前の旧宮原眼科「酔月楼沙龍」を訪ねた。
イオニア式列柱(カップルド・コラム)とイギリス積みの煉瓦の壁を荒々しく残しながら、その上を黒いガラスのカバーで覆うという野心的なリノベーション。スイーツを楽しめる空間に生まれ変わった。「静的な保存」の対極にあるこのスポットが、台湾の、そして世界の若者に受け入れられているこということに、古い建物が持つ新しい可能性を私は感じる。

文化創意産業園区や合作金庫銀行などの「有名どころ」を見た上で、私は、カメラとノートを手に細い路地に入り込む。「有名じゃないもの」を探すために。

あるわ、あるわ……。私はとたんに忙しくなる。

規模の小さい騎楼の、南京下見板の風合いの美しさ。窓の格子の花柄のかわいらしさ。個人住宅のドアや高窓、台湾らしい高い煉瓦基礎の換気口のデザインの優美さ。おそらくは日治時代に造られたのであろうそれらは、80年を超えていまもなお、その意匠の輝きを失っていないのだ。
「これはきっと私だけしか知らないんじゃないかな」
そんな不遜な気持ちでノートに記録していく。日が落ちるスピードが恨めしい。台中だけで何泊もしたい。まだまだ建物が待っているはずだ、と急ぐ。

Facebookに写真をアップしたら、しばらくしてある台湾人の男性からメッセージをもらった。
「私は、あの店を自分で直しているのです。建物の記憶を大切にしながら、それを継承したいのだ」と。
それは、間口4メートルほどの小さな、しかし、煉瓦とモルタルのペディメントが印象的な2階建ての商店だった。だが屋根にはヤドリギが繁茂し、激しく痛んでいたはずだ。
それを彼は、壁や窓をひとつひとつ直しながら、コーヒーの焙煎機を運び込み、再生するというのだ。
半年後、彼から「完成しました」と知らせがあった。台中の新たな観光スポットとして、注目を浴びているらしい。

「私だけしか知らない」なんてことはないのだ。
どんな建物にも物語が刻まれていて、それを引き継ぐ人の存在によって、時代を超えて生きていけるのだ。

私はすぐに返事を書いた。
「必ずもう一度、台中に行きます」と。

文化財指定によって、建物の「更新」(リフォームなど)についての制限が厳しくなり、再利用や販売が難しくなります。そのため、指定に控える古い日式建築が放火されるケースが近年頻発しています。ネット民によってこの不思議な現象を「自燃」(自ら燃える)と名付けました。それを防ぐため、このノートの建物の住所番号を消しました。

寄稿者情報

渡邉義孝
一級建築士・尾道市立大学非常勤講師。 NPO法人尾道空き家再生プロジェクト理事。東アジア日式住宅研究会会員。1966年京都府生まれ。神楽坂の鈴木喜一建築計画工房・アユミギャラリーを経て2004年「風組・渡邉設計室」設立。住宅設計の他、民家再生・文化財調査などに携わる。著書に『風をたべた日々~アジア横断旅日記』(日経BP社)。共著に『セルフビルド~家をつくる自由』(旅行人)など。

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