Taisuki Café

台湾が大好き♡

台北の街で日本のスキー場に出会った話

台北の街で、たくさんの「日本」を見た。
一番見かけた「日本」は日本人かも知れないが(笑)、僕の場合は職業柄、言葉や文字が気になる。街なかに日本由来の語彙がけっこう目立つので、しきりにキョロキョロしながら歩かざるを得ない。
滞在初日にホテルの周りを歩いた時、最初に目に飛び込んできたのが、

上越国際を名乗るヘアサロン。

 

まさか真夏の台湾で、日本のスキー場の名前を目にするとは。それにヘアサロンらしい地名なら、東京とか原宿とか銀座とか乃木坂とかいくらもあるだろうに、なぜわざわざ新潟県のいちスキー場に着目したか。目的地まで歩きながら、考えた。

まずはたぶん、「国際」という語が入れたかったんだろう。
日本にも、海外要素ゼロなのにことさら「国際」「インターナショナル」「グローバル」などの語を入れたネーミングは多いですね。このヘアサロンもその類いだろう。「日本発信&海外でも手広くやっている」イメージを出すため、「国際」となじみやすい日本の地名を探したと想像できる。
実際、WEBサイトには「日本の絶妙な質感」などの日本語を入れているものの、50店近くある支店の所在地はすべて台湾だ。経営者も台湾人のようだし…あ、日本人のスタッフが1人いるようですね。イタリア人も。でもやっぱり、初めに「国際」のネーミングありきだよな、これは。

もちろん、全体の字面にも配慮したに違いない。
「上」に「越」。
それぞれの字にアッパーな意味合い(なんだそりゃ)があるし、「越來越上進」(中国語で「ますます向上する」という意味になる)みたいな言葉もイメージしたのかも……などと考えると、この言葉を見つけた創業者の独り言が聞こえてくるようだ。

「上越国際?おお、いいじゃん。他に登録もされてない。これにすっか」

すっか、と台湾人が思ったかどうか知らないが、なんかこういう軽いノリを感じてしまうのは、どうも名付けた側も、こうしたエセ日本的なネーミングをいくらか楽しんでいる節があるからだ。
日本イメージを出すため、ことさらに仮名を使った例も多い。「の」を交えるネーミングは既に二十年ほども前からさんざん使われて珍しくもないが、時には日本人が思いもつかない文字列が現れる。

「千ち曲くま」

撮影:uedada

あまりのアナーキーさに、僕は道の真ん中で考え込んだ。いったい、なんでこんなことになったのか。
しばらくは呆然と看板を見ていたが、ふと下に目をやると、入口に「千曲カラオケ」とある。急にいろんなことが腑に落ちた。
一つには間違いなく、豊富な曲数を誇ることのアピールだろう(1000の歌のことを現代中国語では「千曲」と言わないが、古典漢文に例があるのでたぶん通じなくはない)。日本を意識したカラオケ店なら当然、五木ひろしの「千曲川」も念頭にあるに違いない。日本人と現地人へのアピールを考えて、経営者なりに考え抜いたネーミングなのではないか。
ただ、読みをルビにせず、漢字の横に同じ級数で並べてしまったのが、なんとしても謎だ。これで一気に「分かってなさ」が滲み出てしまった。

不動産系のネーミングにも傑作がいろいろあるらしい。たとえば、

春上村樹」というマンション。

どう突っ込んでいいやら分からないが、気を取り直して真っサラな心で字面を見てみる。ほら。何やらのどかな郊外ぐらしを暗示する、不動産広告ポエムのようなネーミングではありませんか。最初に「春」を持ってきたのもなかなかうまいんじゃないの、という気持ちになってくる。
ちなみに春上村樹は台北ではなく、台中市にある別荘用物件のようだ。なるほど、大都会の台北で「春」だの「村」だの言われてもウソくさい。その点、台北にピッタリなのは…

「小室哲哉」だろう。

マンションの真正面に「小室哲哉」四文字が!(撮影:Taisuki Café編集部)

これも実在のマンションだ。Googleマップで「台北 小室哲哉」を検索すれば、ズバリの地点が分かる上に、その名の入った建物の画像も見ることができる。
日本人だから、入口に「小室哲哉」と書いてあると失笑してしまうが、この先入観を一旦離れてみる。「小室」はワンルームマンションにぴったりの言い回しだし、さらに哲学の「哲」、漢詩を思わせる詠嘆の助詞「哉」(中国語でも古めかしい言い回し)と来れば、思索的な都会人の一人暮らしが目に浮かぶ…のではないだろうか。知らんけど。
このように、普段使い慣れた我々の言葉を一度解体して眺め直すような体験ができる。それが台北の街だ。

実は後半の不動産ネタは、旅行から帰った後に台湾人から教えてもらった。旅行前にしっかり情報を仕入れておけばと、少し残念に思っている。特に小室哲哉マンションは、実は泊まったホテルの割と近くだった。知っていれば絶対見に行ったのに。

そんなわけで、今後台湾を訪れる方々、ご関心がおありなら、街歩きしながらちょっと観察してみてはいかがでしょうか(笑)。

寄稿者情報

Uedada
日本人。東京在住のコピーライター。2004年に中国語のブログを始め、広告などを題材に日本の文化や日本人の考え方を紹介・解説、好評を得る。現在までに台湾で、日本を紹介する本を3冊出版。
著書:『すごい!日本創意文案』(2008)
   『絆:後311日本社會關鍵詞』(2012)
   『日本製造:東京廣告人的潮流觀察筆記』(2016)
Twitter:@uedada

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