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「台北散歩日和」:辦年貨

「台北散歩日和」:辦年貨

連載:「台北散歩日和」第二話

台北の大稻埕は、清末から日本統治時代にかけて、茶、布、漢方薬、乾物類の取引で、淡水河沿いの迪化街を中心に早くから栄えた街である。この街の鎮守を司る城隍廟には、縁結びに霊験あらたかと信仰を集めている月下老人も祀られている。老舗の乾物屋や漢方薬店に混じり、近年はお洒落なデザイナー系のショップやカフェも軒を並べるようになり、地元の青年たちに混じって国内外の観光客も惹き付ける街へと変貌を遂げつつある。

その迪化街は、旧正月を目前に控えた二週間ほどの間だけ、一年に一度の歩行者天国となる。道路の両側には正月用品を売る露店が所狭しと並び、買い物客でごった返す。この歳末商戦は台湾では「辦年貨」と呼ばれていて、この時期台湾各地の伝統市場に出現する。迪化街の辦年貨は、台湾では最も規模が大きなものの一つだ。ふだんは落ち着いた街並も、この時ばかりは、さながら年末のアメ横のような様相を呈する。店先を間借りした露店で売られているのは、落花生、ピスタチオナッツ、スイカやヒマワリの種、台湾式ビーフジャーキーやポークジャーキー、サキイカ、カラスミなどの乾物類、飴やスナックなどの駄菓子類で、お茶請けや酒の肴として旧正月の家族の団らんのお供として活躍する。

これらの品々は基本的にすべて試食できる。呼び込みの店員が客に試食を促してくれることもあるが、露店に並んだ商品を特に店員に断るでも無く、客が勝手に一つ、二つだけ摘んで行く場合もある。最初は面食らったが、台湾ではこれがふつうらしい。人の流れに任せて前に進みながら、ぼくも台湾のしきたりにしたがって次々と試食品を頬張った。

と、ある露店から威勢の良い声が聴こえて来た。「風邪の予防にはうってつけだよ、さあ寄ってらっしゃい、見てらっしゃい」という感じの流暢な口上だ。店先を覗くと、宜蘭名産の「金棗(金柑)」を麦芽糖に3ヶ月漬け込んだというシロップの試飲販売だった。大きめの透明な容器にその金柑シロップとお湯を入れ、さらに小さじ半杯の塩と二かけの新鮮なレモンの絞り汁と「南姜粉」と呼ばれる生姜の乾燥粉末を少々加えて撹拌したものを試飲用の紙カップに小分けにし、見物客に配ってくれた。見るからにこれは風邪に効きそうだ。ぼくの眼の前に出されたカップを躊躇無く手に取った。美味い。甘み、酸味、香りのバランスが絶妙だ。ちょっぴり加えた塩がさらに甘みを引き出し、滑らかな喉越しに仕上げてくれている。南姜粉も身体を内側からぽかぽかと暖めてくれそうだ。店主も嬉しそうに何度も美味しいだろうとぼくに聞きながら、二杯目、三杯目とおかわりをくれた。大満足。結局、1リットル瓶二本を買い、南姜粉一瓶をおまけに付けてもらった。このほか、大豆を原料としたベジタリアンの「牛肉乾(ビーフジャーキー)」と「雪蓮子」と呼ばれるひよこ豆入りの紫米の餅「紫米蓮子糕」も、試食で味を確かめた上で購入した。

カミさんの記憶によれば、昔の辦年貨では、個人経営の規模が小さな露店ばかりで、それぞれが独自の手作り感あふれるお菓子や飴玉を売っていたそうだ。時代が移り、昔ながらの駄菓子だけではなく、最近では野菜チップスやドイツ風の豚足まで売られるようになり、商品も変化した。今回ぼくらが買った商品も、決して伝統的なものとは言えない。そして、よくよく観察すると、チェーン店を展開しているような比較的規模の大きな企業が多く出店していることに気付く。また、同系列の露店を通りの両側に一店舗ずつ構えることで、双方向の人の流れを逃さないような仕組みになっている。商品も大きな工場やセントラルキッチンで調理・加工されたものが目に付く。個人商店の店主が直接商売をしている店は稀で、ほとんどの店ではアルバイトの店員が動員されている。

台湾の昔の辦年貨がどんなふうであったのか、ぼくは話を聞いて想像するしかない。現在では、伝統市場だけではなく、大型量販店やスーパーマーケット、コンビニエンスストアでも辦年貨の活動が行なわれるようになった。寒波の影響で天候が悪かった一昨年は、24時間営業の大型量販店に客足が流れ、迪化街の辦年貨は大きな打撃を受けたと聞く。かつてのように、旧正月に空いている店も無く、商品の数も量も限られ、物流も発展していなかった時代は、辦年貨は一年一度の本当に重要なイベントだったはずで、人々の旧正月を待ちわびるワクワク感も相当なものであったことだろう。伝統的な風物詩が時代とともに変遷し、その意義が薄れていくのは、ある意味では仕方の無いことだが、一抹の寂しさを禁じ得ないのもまた多くの人々の本心ではなかろうか。

写真:作者

さて、気を取り直そう。迪化街の辦年貨には、屋台料理の出店も少なくない。夕刻に繰り出したぼくらは、この日「炭烤臭豆腐(焼き臭豆腐)」「花枝丸(イカ団子)」「花枝焼(イカフライ)」「炭烤中卷(イカ焼き)」「芋頭牛奶(タロイモミルク)」「黒糖青蛙下蛋(黒糖入りタピオカミルクティー)」などを胃袋に収め、買い出しついでにイカ尽くしの夕食も済ませたのだった。迪化街の辦年貨、来年もやっぱりまた来よう。

〔編集部より〕
迪化街アクセス|
台北MRT
松山新店線(G)、淡水信義線(R)中山駅
松山新店線(G)北門駅、
中和新蘆線(O)大橋頭駅。
(アイキャッチ写真は台湾の若い創作者羅甯氏による、稲町で発表した作品。画像の使用許諾を取得済み。)

寄稿者情報

馬場克樹“爸爸桑”
シンガーソングライター、俳優、フリーライター。北海道大学文学部卒。日本台湾交流協会台北事務所に駐在した後フリーとなり、台湾に移住。音楽創作に加え、映画、TVドラマ、CM、舞台で俳優としても幅広く活動。代表曲に台湾映画の主題歌として蔡健雅(タニア・チュア)に提供した「很靠近海(海のそばで)」がある。

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